思い出の価値
「そないに、たいしたもんではないんですけどね。」と、園長は少し遠慮気味に仰った。旧園舎の踊り場に掲げられていた、アクリル板に描かれたステンドグラス調の絵は、再び新園舎の踊り場を彩っている。
園舎の建て替えは、卒園生の生きた記憶や楽しかった思い出を、重機で破壊することにほかならない。学びの起点ともいえる幼稚園は、卒園生がいつでも戻ってこられる場所でありたい。そして、戻る意味のある場所であってほしいと思う。だから、園舎建替えの依頼を受けると、新園舎へ移設できそうな、思い出の品を探し回ることが習慣になっている。
本物のステンドグラスのように、物質的に「たいしたもの」ではなくとも、その一つ一つに宿る思い出は、本物のステンドグラスの幾倍も輝いているはずだ。
遠慮する必要は微塵もない。過ぎ去った時間や懐かしい思い出は、いくら工事費を積んでも造ることはできないのだ。